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上田秀人
上田秀人を模倣し、武士の文化を描いた完全オリナル時代小説『刀影 ―武士の世を斬る者―』第三十八章
第三十八章 無音寺の鐘 山道へ入ると、鐘の余韻は消えた。 木々の間には風が通っている。 葉も揺れている。 鳥の声もする。 それなのに、道の奥だけが不自然に静かだった。 無音寺。 正式な寺号ではないと玄斎は言った。 人の声を外へ漏... -
上田秀人
上田秀人を模倣し、武士の文化を描いた完全オリナル時代小説『刀影 ―武士の世を斬る者―』第三十七章
第三十七章 海防掛の屋敷 再起館の門外には、六人の武士が並んでいた。 全員が紺の羽織を着ている。 袖口には、波を図案にした小さな縫い取り。 海防掛の者であることを隠す気はないらしい。 先頭に立つ男は、四十前後。 面長で、髭をきれい... -
上田秀人
上田秀人を模倣し、武士の文化を描いた完全オリナル時代小説『刀影 ―武士の世を斬る者―』第三十六章
第三十六章 月下の漂流箱 江戸へ戻る舟の上で、誰も余計なことを話さなかった。 藤吉は舟底に寝かされている。 背へ刺さった矢は抜いていない。 抜けば血が噴き出す恐れがある。 源太郎と辰蔵が交代で傷口を押さえ、半九郎は藤吉の手を握ってい... -
上田秀人
上田秀人を模倣し、武士の文化を描いた完全オリナル時代小説『刀影 ―武士の世を斬る者―』第三十五章
第三十五章 木更津の潜り 夜明け前の江戸湊には、まだ町の騒がしさが届いていなかった。 水面に浮かぶ船影は黒く、帆柱だけが薄明かりの中へ突き出ている。 新之介は伊助の舟へ乗り込む前に、腰の刀を確かめた。 品川沖で鞘ごと投げたため、鯉口... -
上田秀人
上田秀人を模倣し、武士の文化を描いた完全オリナル時代小説『刀影 ―武士の世を斬る者―』第三十四章
第三十四章 濡れた米の行方 品川の浜へ着くと、最初に聞こえたのは、波の音ではなかった。 人の声だった。 漁師。 船頭。 魚を買いに来た商人。 町方の捕り手。 そして、異変を聞きつけて集まった野次馬。 壊れた舷。 煤けた船板。 ... -
上田秀人
上田秀人を模倣し、武士の文化を描いた完全オリナル時代小説『刀影 ―武士の世を斬る者―』第三十三章
第三十三章 海上の米俵 銃声は、海の上では陸よりも大きく響いた。 火縄の赤い光が一瞬だけ廻船の舷側を照らし、その直後、小舟のすぐ脇で水柱が上がった。 「伏せろ!」 伊助が怒鳴る。 新之介たちは舟底へ身を沈めた。 二発目。 鉛玉が舟縁... -
上田秀人
上田秀人を模倣し、武士の文化を描いた完全オリナル時代小説『刀影 ―武士の世を斬る者―』第三十二章
第三十二章 立った者の責 再起館の門が開いたのは、朝日が神田の屋根を照らし始めた頃であった。 新之介は一睡もしていない。 戸田家の騒動を収め、捕らえた者を町方へ引き渡し、三宅主膳の治療を見届けてから屋敷を辞した。 着物には煤と血が残... -
上田秀人
上田秀人を模倣し、武士の文化を描いた完全オリナル時代小説『刀影 ―武士の世を斬る者―』第三十一章
第三十一章 主君の薬 亥の刻を告げる鐘が、遠くで鳴り始めていた。 一つ。 二つ。 夜気を震わせる音を背に、新之介は戸田家上屋敷へ向かって走った。 隣には笠原陣内がいる。 腰に刀はない。 真誠組の頭として御救い米を焼こうとした男が、... -
上田秀人
上田秀人を模倣し、武士の文化を描いた完全オリナル時代小説『刀影 ―武士の世を斬る者―』第三十章
第三十章 三番蔵炎上 半鐘の音が、夜の蔵前を切り裂いていた。 カン、カン、カン――。 火事を知らせる打ち方である。 だが、新之介には、その音が町人を救うためのものには聞こえなかった。 人を動かすための音。 目を逸らさせるための音。 ... -
上田秀人
上田秀人を模倣し、武士の文化を描いた完全オリナル時代小説『刀影 ―武士の世を斬る者―』第二十九章
第二十九章 御救い米 片桐宗次郎の身体は、ひどく冷えていた。 再起館の奥座敷へ運び込まれると、志乃とお園が傷口の布を切り、真崎半九郎が医師を呼びに走った。 左肩の傷は深い。 刃は肩口から背へ抜けている。 さらに脇腹には、何か硬いもの...